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01小さな旅

小 さ な 旅


最初の日は名古屋《なごや》に泊まった。
次の晚には、
木曾《きそ》の福島《ふくしま》に泊まった。
最後が上諏訪《かみすわ》であった。
諏訪では、
窓からヒマラヤ杉越しに湖面の見えるホテルに泊まった。


中央沿線を一度ゆっくりとひとりで步いてみたいというのが、
田沢輪香子《たざわわかこ》の希望だった。
女子大を卒業して、
すぐにもと思ったが、
父も母も容易に賛成せず、
また、
卒業生同士の会合がつづいたりして実現しなかった。


「ひとりで?」

父は、
はじめ聞いたとき渋い顔をした。


「若い娘が、
ひとりで行くのは困るな」

父は、
ある官庁の局長をしていた。
夜がおそいので、
朝早く相談するほかはなかったが、
それも役所からの車が迎えにきて、
待たせているような忙しい時間のときが多かった。


「お母さまはどう言ってる?」

父は、
母からとうに話を聞いているのに、
そう言うのが癖《くせ》だった。


毎晚、
外でおそくなるので、
一応は家の中で母をたてていた。


「お父さまさえ、
よろしかったらって」

輪香子が答えると、

「そうか。
考えとく」
と、
言っていた。
その、
考えておく期間がずいぶんと長かった。


四月が終わり、
五月にはいって、
ようやく許可が出た。


「輪香子は木曾路《きそじ》にあこがれているのかね?」

父はきいた。


「ずっと、
もう先《せん》から行ってみたかったんです。
ひとりで、
自由に步くのだったら、
あの沿線だと決めたんですの」

「あんまり自由に步かれちゃ困るな。
条件があるよ」

「なんですの?」

輪香子は父が許しそうだったから、
なんでも諾《き》くつもりだった。


「三泊四日だ。
これ以上はいけないよ」

「はい」

すこし短かったが、
仕方がなかった。


「泊まる宿は、
私が指定した旅館だ。
いいね?」

父は太っていた。
局長になってから白髪《しらが》がまじったが、
輪香子が眺めても
貫禄がついたと思うのである。
頬《ほお》がたるんでいるので、
厚い唇が窄《すぼ》んで見えた。


「まるで、
役所の人に出張を命じるみたい」

輪香子は、
行きあたりばったりに宿をとるつもりだった。
昔の旅人のように、
日が暮れると
行きずりの宿屋にはいってゆく。
部屋は狭く、
太い梁《はり》を這《は》わせた天井は黒く煤《すす》けて、
畳は赤茶けている。
宿の夫婦が炉端《ろばた》にすわって、
輪香子を招じてくれ、
自在
鉤《かぎ》から大きな鉄瓶をはずして、
渋い茶をついでくれる。
話をしていると、

裏の戸を風が叩《たた》いて過ぎる──
そんな空想をこっそりしていたのである。


「いけませんよ。
ひとりで勝手な宿に泊まっては」

母が輪香子の不服を聞いて口を入れた。


「お父さまのおっしゃるとおりにしてください。
でなかったら、
出しませんよ」

こういう場合になると、

父よりも母に威厳があった。
父は指定の宿をメモに書いた。


それが、
名古屋と、
木曾福島と、
上諏訪であった。
東京から名古屋に直行して、
逆に中央線を回って帰京する
輪香子の予定だけが、
故障をはさまれなかった。


輪香子に父の魂胆が分かったのは、
名古屋に着いてからであった。

ホームの特二の停車位置に
中年の二人づれの男が立っていて、
降りる客に目を配っていたが、
輪香子を見ると、

丁寧な態度で近づいてきた。


「失礼ですが、
R省の田沢局長のお嬢さまでしょうか?」

男たちは口もとにやさしい微笑をたたえていた。


「はい。
田沢ですが」

輪香子が、
少々どぎまぎして答えると、

男の一人が
彼女の提げている
スーツケースを両手で
抱えあげるようにして取った。

彼らは何か名前を言ったが、
輪香子は覚えていなかった。
長い駅の構内を
一人が先導するように
まっすぐに通りぬけると、

表には車が待っていて、
身ぎれいな運転手がドアをあけて
彼女におじぎをした。


ホテルは一流だったし、
彼女がはいらせられた部屋は立派であった。
ここまでついてきた男二人は名刺をくれたが、
肩書を見て県庁の人だと分かった。


一人の男は頭が薄くなっていた。


「田沢局長さんには、
日ごろからお世話になっております」

彼らは、
輪香子が、
局長夫人でもあるように礼を言った。


「このホテルの者に、
よく申しつけてありますから、
どうぞ、
ご安心のうえ、
ゆっくりおやすみください。
それから、
明日は木曾福島においでのご予定だそうですが、
何時にお発《た》ちでございましょうか?」

高い窓からは、
名古屋の灯《ひ》が
低い海のようにひろがってみえた。
輪香子に、
自由な旅のよろこびはなかった。
そう思って、
胸をはずませていたのは、
ここへ着くまでの東海道線の途中だけであった。


ボーイが赤いリボンの垂れた大きな果物籠を抱えてきた。
名刺には、
輪香子の知らない会社の名前がついていた。


(挿絵省略)

木曾福島の宿でもそうだった。


木曾川が低いところに流れてみえる駅のホームにも、
やさしい微笑をたたえた中年の紳士が、
これは三人づれで立っていた。


「田沢局長さんからご連絡をいただいて、
お宿はとってございます」

車は、
輪香子を中央にゆっくりとすわらせて、
川に沿っている道路へおりていった。
いまの列車で降りたばかりの人の群れが步いていたが、
道をよけて顔を上げ、
車を見ていた。
ああ、
あの中の一人になりたい、
輪香子は心の中で叫んでいた。


R省の局長でも、
父は羽振りのいいほうの局長だ、
輪香子は人からも聞いていた。
父は地方まで伸びているその勢威を、
まさか輪香子に見せるつもりはなかったのであろう。
娘の旅の宿を気づかっての愛情からに違いないが、
これでは輪香子は
まるで要所要所の自由を父の手に押えられているようなものであった。


ここに来るまで、
三留野《みどの》という駅で降り、
駅前の古びたタクシーで馬籠《まごめ》へ行ったのが、
精いっぱいの自由といえた。
ここは「通知」していないから、
さすがに父の手から洩れていた。


旧中仙道《なかせんどう》の杉の峠道や、
屋根に石をならべた馬籠の宿場、
藤村《とうそん》の旧宅、
それから妻籠《つまご》から、
飯田《いいだ》に抜ける大平峠《おおたいらとうげ》の途中の茶屋での展望は、
ともかく
輪香子に、
「木曾路はすべて山の中である。
あるところは岨《そば》づたいに行く崖《がけ》であり、
あるところは数十間の深さに臨《のぞ》む木曾川の岸であり、
あるところは山の尾をめぐる谷の入口である。
一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いていた」のイメージを満足させた。


五月の初めのことで、
冴《さ》えた新緑が、
黒っぽい杉の森林の間からもえていた。
大平峠の茶屋では木曾渓谷のひろがりと、
初夏の陽をうけて
光ってうねっている木曾川を望んだ。


光線を眩《まぶ》しくふくんだ白い雲の下には、
淡いコバルト色にかすんだ御岳《おんたけ》の稜線《りようせん》が見えたものである。
輪香子はひとりであった。


これだけが彼女が得た自由だった。
夜は違うのだ。
新築して、
きれいな、
東京と少しも変わらない宿の部屋で、
例のやさしい微笑が真向かいに膝《ひざ》を折ってすわっていた。


「今夜は、
私たちのうちの誰かが、
階下の部屋におらせていただきます。
どうぞ、
ご安心しておやすみください」

輪香子は驚いて目をあげた。


「あら、
そんなの困りますわ」

「いえ」
と、
先方はまじめな顔だった。


「局長さんからご依頼をうけておりますので。
万一、
お嬢さまに何かの不都合がかかりましたら、
われわれが申しわけございません」

まさか、
父がそこまで注文はしないであろう。
輪香子が、
いくら頼んでも頑固に諾《き》かないのである。


夜、
灯《ひ》を消すと、

枕もとに木曾川の水の音が大雨でも降っているように伝わってくる。
輪香子は、
すぐ階下に、
知らない人が自分を意識して横になっているかと思うと、

気味が悪くて眠れなかった。


どこかに宴会があるらしく、
木曾節《きそぶし》を弾《ひ》く三味線の音がいつまでも聞こえた。
太い梁の這っている黒い天井と、
赤茶けた畳と、
炉端の火はどこにもなかった。
──
この上諏訪に着いてもそうなのだ。
やはり、
穏やかな微笑を口辺に浮かべた出迎え人があった。
まだ、
昼間だったが、
すぐに湖畔の旅宿に連行されてしまった。


きれいな芝生の上に、
高く伸びたヒマラヤ杉の植わっている洋式のホテルだった。
戦前は宮さまがかならずお泊まりになったという由緒《ゆいしよ》を聞かされたが、
すこしばかり古めかしいのを除くと、
高雅な建築様式であった。


ホテルの窓からの眺望だけはよかった。
湖水が蒼《あお》くひろがり、
光を中央にためていた。
黒い小さな舟が動いている。
対岸に屋根がこまやかな点描《てんびよう》で集まって見え、
その後ろにゆるやかな山が横に流れていた。


「真向かいが岡谷《おかや》の町でございます。
あのあたりが天龍川《てんりゆうがわ》の取入れ口で、
こちらが諏訪神社の上社《かみしや》、
反対側のあちらの森が下社《しもしや》でございます。
冬になりますと、
湖水が凍って、
有名な御神渡《おみわた》りの現象が起こります。
ええと、
なんでございましたら、
車でその辺をご案内いたしましょうか?」

輪香子は、
もうたくさんだったから、
その微笑にくるんだ親切な申しいでを断わった。


ひとりになって、
こっそりホテルの女中にきくと、

通りいっぺんの名所を教えたが、
何か変わったところを、
言うと、
女中は小首をかしげていた。


「下諏訪に行く途中に、
昔の家がございますが、
変わっているといいましても、
そんなところでございます」

女中は、
あまり自信がなさそうに答えた。


「昔の家、ですの?」

「はい。
なんですか乞食《こじき》の掘立小屋みたいなものでございます。


学生さんなんかが、
もの好きに見にいらっしゃいます」

「ああ、考古学の遺跡なのね」

輪香子は了解した。


「そりゃ、きっと竪穴《たてあな》の跡だわ。
小屋が建ってるなら、
復原したのね?」

「はあ、
なんですか、
そんなようなことでございます」

輪香子はそれを見にゆく気になった。


「近いかしら、
ここから?」

「はい。
お車で十分ばかりでございますが」

「じゃ、車、お願いしますわ」

部屋の卓の上には、
やはり届けものの果物籠がのっていた。
赤いリボンに名刺が結んである。
輪香子の知らない会社の出張所か営業所長の名前であった。
これも名古屋のときと同じように、
宿の女中さんに食べてもらうつもりだった。


「お車がまいりました」

女中が知らせてきたので、
輪香子はレース手袋をはめ、
ハンドバッグを抱えながら、
「これ、皆さんであがってくださいね」
大きな果物籠を指さした。


「は?」

「いいのよ。わたし、ほしくないから」

車は往還を北にすすんだ。
「茅野《ちの》行」とか「塩尻《しおじり》行」
とかの標識を掲《かか》げたバスが通っている。
輪香子は、
知らない土地で、
未知の地名を見るのが好きである。
道には白い埃《ほこり》が立っていた。


「お嬢さんは東京から初めていらしたのですか?」

運転手が背中できいた。


「そうよ」

輪香子は、
次第に家が少なくなる両側を見ながら答えた。


「やっぱり、
考古学を、
ご勉強なんですか?」

「ううん。
そうじゃないけれど。
ただのもの好きよ」

運転手は牛のひいている荷車を苦心して追いぬいた。
それから右にカーブを切ると、
小さな道を急勾配《こうばい》で登った。

すぐに、
部落があって、
車はそこでとまった。


「ここでお待ちしております。
その畔道《あぜみち》を上がりますと、
すぐに小屋が右手に見えますから」

運転手はドアをあけ、
帽子をつきだして方向を教えた。


「そう。ありがとう」

そこは小高い丘になっていて、
左右が傾斜のある畑だった。
低い木が林のように集まっていたが、
それには、
いっぱい白い小さな花がついていた。
梨の花かと思った。


輪香子が近づいてみると、

梨の花とそっくりだが、
花弁は薄赤色をおびていた。
葉も細長いかたちだった。


が、
新緑の滴《したた》るようなエメラルド色の茂りに梅か白桃かとも見紛《みまご》う小さな白い花の満開は美しかった。
畑の麦も腰ぐらいに高いのである。


復原された竪穴の遺跡は、
その青い麦畑の中にぽつんと建っていた。
原始的な合掌造りで、
萱《かや》で葺《ふ》いてある。
輪香子は畔道を伝って近づいた。


ここまできて、
はじめて気づいたのだが、
諏訪湖が意外な低さでひろがっていた。
上諏訪の町も、
下諏訪の町も、
岡谷の町も、
一つの展望の中にはいっていた。
陽が少し傾きかけて、
湖面は目が痛いくらいに強く光っていた。


湖上には白い遊覧船が動いている。
風に乗って、
案内のアナウンスと音楽が聞こえた。


輪香子は、
合掌造りの掘立小屋を眺め、
そこに立っている説明の立札を読んだ。
遠くに農夫が腰をかがめて麦畑にいるだけで、
誰も近くにはいなかった。


その太古の小屋の傍にも小さな白い花をこぼれるようにつけた低い木があった。


輪香子は、
小屋の入口があいているので、
内部を覗《のぞ》きたくなった。


暗くて、
すこし気味が悪かったが、
思いきって内部に足を入れた。
一段と地面が低くなっているのは、
竪穴の構造なのである。


明るい外から急にはいったので、
目には暗いだけであったが、
空気が不意に冷たいのはよく分かった。


内部にも何か掲げてあるらしいので、
それを見たいと思い、
目の慣れるのを待っていると、
急に暗い隅から何かが動いたので、
輪香子は肝《きも》を消した。


動物でも寝ていたのか、
思わず
叫び声をあげるところだったが、
「失敬」
と、
起きあがった先方が声をかけてくれた。
乞食か浮浪者がいたのかと、
とっさに今度は蒼くなって逃げかけようとしたが、
やっと慣れた目には、
ふくれたズックの鞄《かばん》を枕にしていたらしい青年の黒い輪郭がうつった。


「失敬」
と、
相手はもう一度言った。
「きみ、ここの管理人ですか?」


起き上がった男の姿は、
恐縮していた。
あわてて白いズックの鞄を肩にかけようとした様子がみえた。


輪香子は安堵《あんど》し、
それから気の毒になった。


「管理人じゃありませんわ」

彼女は打ち消した


「ただの見物人なんです」

輪香子が見まもっているなかで、
男は自分の動作を急にゆるめた
掘立小屋の入口から
せまく射《さ》し込んでいる光線が反射して、
彼の片頬をほのかに浮かばせた
声のとおりに、
若い男なのである。


「安心しました」
と、
青年は言った。


「以前に、
管理人からひどく叱《しか》られた経験がありますのでね」

「あら、
この内に立ち人ってはいけませんの?」

輪香子は周囲を見回した。


「いや、
ぼくのは寝てたんです」

青年はすこし笑った。


「ここじゃありません。
この少し南に茅野町《ちのまち》というのがあって、
そこに尖石《とがりいし》の竪穴というのがあります。
有名な場所ですがね。


二週間前、
その竪穴の内にもぐりこんで寝てたのを見つけられたのです」

「そういうご趣味を……ああ、
考古学をおやりになってらっしゃるんですね?」

青年の話し方が明るかったし、
輪香子も思わずそんな質問の仕方をした。


「別に、
それを勉強しているわけじゃありません。
学問とか趣味とかを離れて、
好きでこんなところを步いてるんです」

暗さに目が慣れて、
相手の恰好も輪香子に分かってきた。
登山帽みたいなものをかぶり、
ジャンパーと、
裾《すそ》をくくったズボンをはいている。


田舎《いなか》の小学生が持っていそうな、
肩にかける鞄を、
手にぶらさげていた


好きで、
こういうところに乞食のように寝るというのは、
どのような心がけだろう。
輪香子が黙っていると、

「びっくりなさいましたか? ぼくがここに寝ていたので?」

青年はきいた。


「ええ。逃げだすところでしたわ」

「そりゃ、どうも。たいへん失敬しました」

青年は登山帽をとって、
おじぎをした。


「いいえ。もう、なんともないんです」

輪香子は会釈《えしやく》をした。


「お嬢さんは考古学のご勉強でここを見にいらしたんですか?」

「いいえ。わたくしは、ただ、もの好きにここに来ただけ」

「失礼ですが、
東京のおかたですか?」

「そうです。
諏訪に遊びにきて、
ほかに見にゆくところがないものですから、
もの好きにここを覗きにきたんですの」

「そりゃ、いいことです。
どうです、涼しいでしょう?」

「え、そりゃもう。
この中に足を踏み入れたとたんに感じましたわ」

輪香子は実感を言った。


「外の空気とは三度ぐらいちがうんです。
これで冬ですと、
逆に暖かいのですよ」

青年は地面の中央に掘ってある穴を指でさした。

「ここが、炉の跡です。
ここで火を燃しましてね
古代人たちは弓で仕止めた獣や、
湖水の魚を焼いて食べながら、
家族同士で歓談したんですね」

「そんな古いことに興味をお持ちなんですか?」

「古代人の生活がなんとなく好きなんです。
見ただけでは分かりませんよ。
ぼくのように一晚寝てみないと」

「一晚?」

輪香子は声をあげた。

「じゃ、昨夜《ゆうべ》から、
ここにお泊まりになったんですか?」

「いや、昨夜は違います。
今朝早く、東京から、
こっちに来たんです」

「ああ、東京のおかた?」

それを輪香子が言う番になった。


「ええ。
今日が日曜日で、
明日が祭日ですから」

そうだった。
連休だったことに輪香子も気づいた。
学校を卒業すると、
曜日の感覚が鈍《にぶ》くなった。


すると、
この青年は学生だろうか。
いやいや、
学生という感じではない。


どこかにもっと
大人《おとな》らしい落ちつきがあった。
たぶん、
勤め人であろう。
それも、
入社してまもないというような。


「お休みのたびに、
東京からわざわざ、
こんな場所にお寝《やす》みにいらっしゃるんですか?」

輪香子がすこし呆《あき》れた口吻《くちぶり》で言うと、

「いや、
かならずしも寝るとはかぎりませんが

青年の声に、
小さな笑いがまじった。


「外にでましょう、
とにかく」
と、
彼のほうから言った。


外に出ると、

眩しい光が殺到してきた。
蒼い空と新緑が強い色で目に迫ったことである。
体にぬくみを感じたのは、
温度がちがう竪穴の中から出てきたせいだと輪香子は知った。


外光のなかの新しい印象は、
外の景色だけではなかった。
青年が、
やはり学生でなく、
二十七、
八ぐらいの年齢だと想像できたし、
帽子の庇《ひさし》のかげになっているが、
眉が濃くて目が大きく、
陽の当たった部分の皮膚も、
けっして白いものではなかった。


青年は、
無遠慮でない程度の視線で、
輪香子を眺めた。
彼女の経験の中にあるあわてて逃げる視線でなく、
ゆったりと見るものは見届けておくといった、
まなざしであった。


その目を、
自然な感じではずし、
青年は復原した竪穴住居の外観に体の向きを変えた。


「さっきのつづきですが」
彼は、
肩に吊るした無骨なズック鞄の紐《ひも》に片手をかけて言った。


「この竪穴の中に寝ていますとね、
妙な錯覚が起こるんですよ。
つまり、
ぼくが家族の一員でね、
みんな狩猟に出はらって、
ぼくが留守番をしているような気になるんです」

輪香子は笑いだしたが、
その話以外に、
一つのことを知った。
この話は、
掘立小屋の中でもできたはずである。
それを誘って外に出たのは、
円形の暗い住居の中に、
二人きりでいることを青年のほうで避けたことだ。
彼からある距離を置いてならんで立っている輪香子には、
その心づかいがよく分かった。


「古代人の夢を見てらっしゃるのね」

輪香子は言った。
義理にも、
詩的とも甘美とも言えない。
石の鏃《やじり》を使い、
石の包丁で動物の皮を剥《は》いでいる半裸体の毛むくじゃらな原始人の恰好を考えると、

夢といったのが、
せいぜいの彼女の挨拶であった。


「そうかもしれません」

青年はそのお愛想を、
受けとるとも受けとらぬともつかない返事をした。


「彼らの単純な生活が好きになりましてね、
休みの日には時々、
こんなところに来ては、
ぼんやりしてるんです。
無論、
復原してない竪穴もですが」

「そんなところでもお寝《やす》みになれますの?」

「これは野天ですから、
まさか泊まるわけにはゆきません。
腰かけて眺めているくらいなものです」

「やっぱり、
家族の一員のつもりで?」

輪香子の軽い冗談《じようだん》をうけて青年は声を立てて笑った。


「いつも、
そうはゆきません。
やはり三千年の時間をへだてた外来の訪問者ですよ」

「その訪問者は」

輪香子はちょっと躊《ためら》いながら言った


「現代の都会生活が退屈になったから逃げてくるんですか?」

青年はすぐに返答をしなかった。
輪香子が軽く後悔したのは、
青年が気軽に言葉を返してくると思ったのが、
その顔から明るい微笑を一瞬に消したことだった。
帽子の庇が陽をよけてつくっている黒い輪の中の目に、
不機嫌そうなかげりがさしたようにみえた


輪香子が思わぬ反応にあわてていると、

「そう言えるかもしれません」
と、

青年のほうが彼女の気持を察したように、
意外に明るい声で言ってくれた。


「そうかもしれませんね、
実際。
でも、
こんな返事をすると、
すこし気障《きざ》になりますね」

「いいえ、
そうは思いませんけれど」

輪香子は顔がすこしあかくなった。
そんなつもりで言ったのではない。
無論、
抽象的な、
気の利いた質問のつもりだったが、
軽薄で生硬な言葉を口に出したものだと自分を叱りたくなった。


「これぐらいの規模で」
と、

輪香子は自分の気持を急いで救うように質問をにわかに変えた。


「家族が何人ぐらい住んでいたのでしょう?」

「さあ、
五、六人ぐらいかな」

青年の語調は、
もとにかえっていた。


「もっとも庶民的な住宅ですよ。
こういう竪穴は、
はじめ海岸近くの洪積《こうせき》台地につくっていたんですが、
だんだん奥地にはいって、
やはり、
こういう高台に営まれたんですな。
一つや二つでなく、
数個集まっているところをみると、
一つの村をつくっていたのかもしれません」

「村? では、
村長さんみたいのが、
いたんでしょうか?」

輪香子は、
いよいよ気を変えるようにきいた。
いったん、
傷ついた気持はすぐには直らなかった。


「竪穴址《あと》に特別大きいのがないところをみると、

まだそういう権力者はいなかったのでしょうね。
みなが平等に共同して生活していたのかもしれません」

青年は言って、
話が若い女性向きでないと気づいたか、
「失敬、お嬢さん、
ぼくは下の町に降りてゆきたいんですが」
言い、
輪香子に、どうしますか、
帽子の下から目できいていた。


青い麦畑の径《みち》を青年が先になり、
輪香子が後ろから従った。
自然と、
彼女の目は、
青年の背中を見ながら步いていることになった。
薄いジャンパーを脱《ぬ》いで
シャツになった青年の肩幅は広かった。


その一方の肩から下がったズックの鞄は、
何がはいっているのかふくれていた。
よごれて薄黒くなっているその鞄には、
中学生がするように墨でT.Oと書いてあった。


T.O……輪香子は漫然とその頭文字《イニシヤル》当て字を考えている。


先頭の青年がとまった。
径は下り坂だったので、
輪香子の脚はうっかり彼との間隔をちぢめた。


「きれいでしょう」
と、
彼がさしたのは星屑のように小さく、
無数に枝についた白い花だった。


輪香子が最初見たとき名前を知らなかった梨に似た花である。


「新緑の今ごろが、
カリンの花の盛りなんです。
この花を見ると、
諏訪に来たな、
思いますよ」

「カリンですって?」

「あ、ご存じない?」

青年の声が背の伸びた麦の上から聞こえた。


「秋に実がなります。
唐梨《からなし》とも言いますがね。
大きくて、
香りもいいけれど、
渋いうえに堅いので、
ナマでは食べられません。
この地方では砂糖漬にして売っています。
あんまりうまいものじゃありません」

輪香子が感じたことは、
この青年がこの地方に詳しいということだった。


それほど、
この辺によく来る人であろうか。
もしかすると
この地方で生まれた人かもしれないと思ったが、
不躾《ぶしつけ》だし、
それはきけなかった。
さっきのことが心にまだ残っている。


もしきけたら、
もう一つあった。
この青年はどのような会社に勤めているのであろう。
名前を頭文字で満足したように、
彼の職業もその程度の暗示がほしくないでもなかった。
休日には、
ふらふらと古代人の住居を訪ねてゆくような男を雇っている会社の名を、
できれば知りたいものである。


湖面が沈んで、
それが集落の家と家との隙間に水平となって光っている道路までおりると、

青年は、
輪香子の方をむいて、
登山帽の波打った庇に指をかけた。


「ああ、
お嬢さん、
まっすぐに旅館にお帰りになるんですね?」

彼は、
輪香子の持たせてある車を見て言った。


「ご機嫌よう。失礼しました」

「あら」

輪香子は思わず言った。


「上諏訪へいらっしゃるんでしたら、
途中までお乗りになりません?」

「ありがとう」

青年は軽く頭をさげた。


「でも、
ぼく、
方角が反対なんです。
これから下諏訪に寄るものですから」

「残念ですわ。
もう少しお話をうかがいたかったのに」

輪香子は、
おだやかに笑っている青年の白い歯を見ながら言った。


「それじゃ、
明日《あした》のお休みも、
この辺をお步きになりますの?」

青年は首を振った。


「明日は富山《とやま》県をうろついています

「富山県?」

輪香子は目をまるくした。


「洞窟があるんです。
氷見《ひみ》というところですが」

「それも古代人?」

「そうです。
住居址《し》です。
遠いから休暇を一日とるかもしれません」

青年は低い声で言い、
てれたように苦笑した
輪香子は呆《あき》れた。


運転手がドアをあけた。


「さよなら。お気をつけて」

輪香子は窓から手を振った。
車が斜面の道をおりてゆくまで、
古代人はあとからゆっくり步いて、
にこにこしながら帽子を上げた。
彼の肩からつりさがった鞄が、
あんがいな白さで目についた。


──が、
輪香子は、
その青年の鞄に偶然に翌日の朝、
再会した。


持主は気づかなかった
輪香子が上諏訪駅から上り列車に乗って発車を待っていると、

下り列車のホームの跨線橋《こせんきよう》の階段へ流れている乗客の群れの中に、
それを発見したのだ。


青年は昨日のとおりの服装で、
鞄を肩から吊《つ》って步いている。
が、
登山帽の下にのぞいている彼の横顔は、
輪香子が、
ちょっと人違いではないかと思ったくらい、
しかめられていた
少しもたのしそうなところのない、
沈んだような表情だった。
移動してゆく彼の広い肩のあたりも、
ひどく寂しそうなのである。
それはわずかな間の目撃だったが、
輪香子を車窓から乗りださせたものだった。


下り列車だから、
彼はいまから信越線回りで、
富山の洞窟に出かけるのかもしれなかった。


「元気で行ってらっしやい、古代人!」

輪香子は口の中で言葉を投げた。



田沢輪香子は、
三泊四日の旅から帰った。


新宿《しんじゆく》に夕方着いたので、
家にはいった時は、
まだ陽が残っていた。


「あ、お帰んなさい。
予定どおりだったのね」

母は、輪香子が、
玄関から自分の居間にはいるのを、
あとからついてきながら言った。


「時刻表見てたのよ。
やっぱり、
思ったとおりの汽車だったのね。
疲れたでしょ?」

母は四日ぶりに帰ってきた輪香子を、
珍しそうに見ていた。


「まったく、予定どおりだったわ」

輪香子は椅子《いす》の上に体を落として、
脚を投げだした。


「おや、どうしたの?」

母は輪香子が意外に不機嫌なので、
目もとだけに微笑《わらい》を残して、
不審そうな顔をした。


「だって、
あまりにも自由がなかったんですもの」

輪香子は頬をふくらませた


「変ね。なんのこと?」

「お父さまの指定の旅館には、
わたし、
ちゃんと泊まりましたわ。
でも、
駅までのお迎えや、
旅館にまできて、
差し入れしたり
お節介していただく約束はしませんでしたわ」

「差し入れなんて、
きたない言葉はよしてちょうだい

母は顔をしかめた
色の白い細面《ほそおもて》のひとで、
笑うときも、
しかめるときも、
鼻皺が寄るので、
輪香子が見ていても、
母がかわいく感じられるのである。


「で、
輪香子のいただきものや、
お迎えしてくだすったのは、
どなたなの?」

「地方のお役人や、
商売人のかたですわ」

「そう。
お名刺、
ちゃんと持ってるんでしょうね?」

「ハンドバッグの中にありますわ」

母は、
机の上に置いてある輪香子の白いハンドバッグをあけた。
その中から十枚ばかりの名刺をとりだして、
一枚一枚繰りながら目を通していたが、
「これ、
お父さまにお見せしなくちゃね」
と、
帯の間に入れた。


「いいじゃないの。
あなたがひとり旅だと思うから、
お父さまが旅館をお願いしたんでしょう。
お迎えや、
いただきものは
ご先方のご好意ですよ」

母は、
父の中央役人としての勢威が、
田舎にまでおよんでいるのに満足のようであった。
母の鼻皺は笑いに変わった。


宮さまか何かじゃあるまいし
そんなの厭《いや》だわ。
だから、
お父さまがお帰りになったら、
わたし、
うんと文句を言ってあげるの。
せっかく、
たのしみに行ったのに、
ちっとも自由がなかったわ」

「まあ、そんなことは言わないで」

母は機嫌のいい顔でなだめた


「これも、お父さまのおかげで、
輪香子にも皆さまがよくしてくださるのだから、
いいじゃないの」

「わたし、そんなの嫌いですわ」

母が思わず本音《ほんね》を吐《は》いた恰好なので、
輪香子はすこし激しい調子で言った。


「お母さまじゃお分かりにならないようね。
わたし、
お父さまに直接申しあげるわ」

「はい、はい。
分かりましたよ」

母は輪香子の剣幕に困ったように、
苦笑を浮かべて出てゆこうとした。


「あ、お母さま。
お土産《みやげ》」

輪香子はもう一つの椅子の上に置いた四角い包みを母に、
はい、
と言ってさしだした。


「ありがとう。
なに、これ?」

「カリンの砂糖漬ですよ。
諏訪のお土産なの」

「ああ、カリンね」

母は、カリンを知っていた。


「お母さま、ご存じなのね? 
わたし、知らなかった」

「前にいただいたことがあるから知ってますよ」

「でも、カリンの花、
ご存じないでしょう?」

母は首を振って知らない
と、
言った。


「とてもかわいい白い花ですわ。
それが、木にいっぱいに咲いていますの」

「そう。
あなたは見てきたのね。
今ごろ花が咲くものなの?」

「え、新緑に映《は》えて、
そりゃ、きれい」

青い麦畑の径を、
先になって步いている青年の姿が、
話している輪香子の目に浮かんだ。
うすよごれたズックの鞄を肩にかけて、
長身の背中を見せていたが、
急にとまると輪香子をふり返り、
白い花を見せたものである。


(あ、ご存じない?)
丈《たけ》の伸びた麦の上から
聞こえた声も明るかったし、
青年の微笑している横顔も、
斜めに射した光線が
深いかげりをつけたものであった。
麦の下には、
白い湖水が光をふくんで広がっていた。
──
「輪香子は、
さっき、つまらなかったと言ってたけれど、
結構、たのしかったようじゃないの?」

母は、
輪香子の機嫌が急に直ったものだから、
目を細めた。


「え、カリンの花と竪穴を見たときだけですわ」

「タテアナ?」

輪香子は、
その話には不意に戸を閉めた。


「輪香子は、
今度の旅が、
だいぶ不平だったらしいな」

父は、
相変わらず、
役所から迎えにきた車を待たせた忙しい出勤前の時間に、
輪香子の部屋にきた。


「昨夜、お母さまから聞いた。
私に、文句を言うんだって?」

いつも友だちがすわる、
きゃしゃな椅子に、
肥えた父窮屈げに腰をおろし、
笑っていた。


「え、とても厭でしたわ。
いちいち、
駅に迎えにきていただいたり、
旅館にきてよけいなお世話をしてくださったり、
ちっとも、
ひとり旅のたのしさがありませんでしたわ」

輪香子は朝のピアノの練習をするつもりで
楽譜を調べているところだったので、
その本を手に持ったまま父に向かった。


「そりゃ仕方がない。
先方では、
私に気をつかってしてくれたことだ。
旅館の手配を頼んでおいたからな」

父は煙草をくわえ、
うつむいてライターを鳴らした


「でも、わたし、
お父さまの娘だけれど、
お役所の仕事とは関係ないことですわ。
ちっとも名前を知らない人が、
いろいろと目の前に現われて、
旅館までの車にいっしょに乗りこんだり、
いちいち、
こちらの予定をきいたり、
届けものをしたり、
とても不愉快な気分でしたわ。
わたしが空想していた自由な旅のたのしさなんて、
ちっとも味わえずに、
行くさきざきで束縛されたみたいでしたわ」

「それは悪かったね」

父は、
青い煙を吐いておだやかに娘の抗議を受けた。


「でも、
若い女のひとり步きだからね。
旅館だけは指定しておいたが、
同じ気持を、
世話してくれた地方の人も持ってくれたのだ。
その好意をあんまり悪くとってはいけない」

「いいえ、地方のかたは」

輪香子は、
父のくわえている煙草の灰が
長くなって落ちそうになったので、
灰皿代わりにありあわせの紙に受けてやった。


「わたしへの心配じゃなくて、
お父さまへの心づかいですわ」

父は、
それを聞くと、
厭な顔をした。


「まあ、
そう言ったもんじゃない。
私だって、
輪香子がどんなところを步いているか
全然知らないでは心配だからね。
輪香子はひとり旅の自由がなかったと怒ってるけれど、
未知の土地で災難にあうよりも、
そのほうがまだましなのだ。
輪香子ぐらいの年ごろは
夢みたいな冒険心を起こしたがるがね」

父の言い方には、
役所で下僚に
言いふくめるときの口吻《くちぶり》がどこかに滲み出ていた。
それは母にものを言っている場合でも出てきた。
輪香子は父が好きだったけれど、
そういう感じのする瞬間の父は嫌いだった。
輪香子は黙った。


父は輪香子が黙ったものだから、
納得したものと思ったらしく、
腕時計を見て、
椅子から立ちあがった。


「ああ、そうそう、
お土産、ありがとう」

娘の部屋を出るときに言った。


「カリンの花がきれいだったって?」

父は母から昨夜おそく、
話を聞いたらしい。


「ええ」

「よかった。
そりゃ、よかったな」

父は、
輪香子の不満を味の悪いものとして聞いたあとなので、
ほっとしたように、
そこだけを念入りに言った


「お土産の砂糖漬は、
悪いけれど、
それほどおいしくなかったね」

あのときの「古代人」もそんなことを言っていた。
しかし、
カリンのお土産を買ってきたのは、
一人の青年を佇《たたず》ませて、
蒼い空と湖を背景にした、
小さな白い花への愛惜《あいせき》であった。


母が覗きにきて、
父を車にせきたてた。


輪香子に、
友だちから電話がかかった。


「ワカちゃん、
今度の日曜日、
郊外に遊びにゆかない?」
いっしょに女子大を卒業した佐々木和子《ささきかずこ》からであった。
彼女は、
輪香子と違って、
勤めに出ていた。


「郊外って、どこよ?」

「深大寺《じんだいじ》。
知ってる?」

「ああ、
名前だけ知ってるわ」

「行きましょうよ。
武蔵野《むさしの》だし、
新緑がとてもいいわよ。
あなた、
行ったことがないなら、
ぜひ、
お連れしたいわ」

新緑なら諏訪で見てきていた。
帰りの汽車の窓から見えた富士見《ふじみ》から信濃境《しなのさかい》あたりは、
樹林が迫って、
乗客の顔が蒼く映えたくらいであった。
輪香子はその印象を大事にしたい気持であった。


「そうね」
と、
電話口で渋ると、

「ねえ、
行きましょうよ。
あたし、
あなたがいっしょに行くことに決めて、
たのしみにしているのよ。
もう先《せん》、
行ったことがあるので、
ご案内したいの」

佐々木和子の声は弾《はず》んでいた
輪香子は、
それで承諾した。


寺は古かった。


山門が藁葺《わらぶ》きで桃山《ももやま》時代の建築というから古いものである。
入母屋《いりもや》造りの本堂も、
その横の石段を上がったところにある小さな堂も、
こけがとりついたように
くろずんでいる


が、
その黒い色をいっそう沈ませているのは、
その周囲に立っている樹林の蒼い色のせいかもしれなかった。


場所が武蔵野の中だし、
それも、
ここは「万葉植物」が栽培されているというほどに由緒を感じさせた。
山門までの道は杉木立(すぎこだちがあり、
寺の屋根の上は密林のように葉が緻密《ちみつ》に重なっているのである。


静かだった。
都心から乗物で一時間ぐらいの距離に、
まだこんな場所が残っていたかと、
輪香子も驚いたくらいだった。


「どう、いいでしょう?」

佐々木和子は寺の石段をおりて、
音立てている小さな滝へ步きながら言った。
その滝も湧《わ》き水なのである。


「来てよかったわ」

輪香子は、
小柄で、
いつも明るい顔をしている友だちに実感を言った。
子供が三人づれで、
滝の落ち水に手を漬けて、
氷のようだと騒いでいた。


信州で見た新緑とも違う、
吸いこまれそうな深い緑が、
閑静な空気に重く沈んでいた。


「ここ、おそばが名物なのよ。
ね、食べない?」

山門の前には、
「名物、深大寺そば」
いう看板をかけた店が二、三軒あった。
ひなびた食べもの店で、
これは寺の風景によく似合っていた。


「いいわ」

輪香子は賛成した。


腹ごしらえをして
三鷹《みたか》の天文台の方へ步いてみましょうね。


その径《みち》も、
またいいのよ。
ほんとに武蔵野にきたという感じがするのよ」

佐々木和子は、
以前に步いたことがあるといって、
輪香子を連れてゆきたがっていた。
学校のときから、
輪香子を好きだった友だちである。


藁《わら》でできた馬や、
達磨《だるま》などを店先にならべたそば屋にはいりかけて、
佐々木和子は、
「あら、虹鱒《にじます》もあるのね」
言った。
看板には、
その文字が出ていた。

「珍しいわね。
虹鱒の料理、できたら、
こっちも食べたいわ」

輪香子も、
それは食べてみたかった。


「じゃ、ちょっときいてくるわ」

佐々木和子は、
店の中にはいって、
おじさんと話をしていた。


輪香子は、
その話がすむまで、
そこに立って待っていたが、
ふと、
山門の方を見ると、
古い建物の下をくぐって
一組の男女がならんで石段をおりてくるところだった。
恰好のいい洋服と、
すらりと着つけのきれいな和服の女性だとは、
目が瞬間に捕えた印象だったが、
それヘはっきりとした視線を向けるのは、
もとより不躾《ぶしつけ》なのである


目を店の方へ戻したときに、
佐々木和子がにこにこしながら出てくるところだった。


「虹鱒ね、
おじさんが目の前で料理して見せると言ってるわ」

「そう。見たいわ」

輪香子も微笑《ほほえ》んだ。


「おじさんが、
裏へ回ってくれって言ってるのよ。
行きましょう」

店の横は、
やはり湧き水を利用して、
ジュースやビールの瓶《びん》が冷やしてある。
客の腰かけも素朴なものだった。
そこを通りぬけ、
木の葉や草のいっぱい蔽《おお》っている斜面についた径をおりると、

小さなせせらぎが流れていた


シャツだけの店の主人が、
二人を待っていて、
流れに漬けてある四角い木箱のようなものをさした。


「虹鱒はこの中にいますのでね、
いま、取って、
ここで料理します」

おじさんはかがんで腕を箱の中に入れた。
手が出たとき、
指に跳ねている魚をつかんでいた。
黒っぽい背に、
赤鉛筆でひいたような線があった。


「虹鱒はね、
東京では、
ここしか育たないんですよ」

用意した俎《まないた》の上に置くと、

魚は諦《あきら》めたように動かないでいた


「水質が中性で、
水の温度もこれくらいなところでないと死ぬんですよ。
だから、
ここの湧き水がいちばん虹鱒には適しているのです。
東京のデパートが、
なんとかして虹鱒を飼いたいと苦心しているんですが、
こればかりはどうにもなりませんな」

おじさんは講釈しながら、
包丁を入れていた


「あら、ちっとも跳ねないのね?」

佐々木和子が覗きこみながら言った。


「そうですよ。
鯉と同じでね、
こいつは俎の上に乗せたら立派なもんです

わきには、
草の匂いの中に、
湧き水の流れが絶えず水音を聞かせていた。


流れの末は、
深い杉林なのである。


潅木《かんぼく》の枝が遠くで鳴る音がした。


魚を見ていた輪香子は目をあげて、
その方を何気なく見た。


枝と草を分けて、
洋服と白っぽい着物が、
斜面をおりてくるところだった。


ああ、
さっき、
山門を出てきた人だな、
輪香子が思っているとき、
木の茂みから出た男の顔を見て、
彼女は、
もう少しで声をあげるところだった。


諏訪の竪穴に寝転んでいた「古代人」なのである![#改ページ]

  • 窓からヒマラヤ杉越しに湖面の見える
  • ゆっくりとひとりで步いてみたい
    • 急がないさま。
    • 落ち着いて何かをすること
    • 余裕があるさま
    •   どうぞごゆっくり。/请再坐一会儿。
    •   ご飯をゆっくり食べる。/慢慢地吃饭。
    •   日曜日はゆっくり起きる。/星期天起床晚。
    •   時間をかけてゆっくりやる。/放长时间慢慢地做。
  • すぐにもと思ったが
    • (以前。昔。)
  • 渋い顔をした
    • 阴沉的。抑郁的。(不平そうである。)
    •   いつも渋い顔をしている。/老是绷着面孔。
    •   渋い返事。/待理不理的回答。
  • 母からとうに話を聞いている
    • (ずっと前に。とっくに。)
  • 一応は家の中で母をたてていた
    • 立てる 
    • 【たてる】 【tateru】 ② 
    • 【他動】

    • (1)立,竖。(垂直の状態にする。)
    •   電柱を立てる/立电线杆。
    •   国旗を立てる/插国旗。
    •   標識を立てる/立路标。
    •   寒そうにオーバーのえりを立てていた/冷得(他)把大衣领竖了起来。

    • (2)冒,扬起。(上に広がらせる。)
    •   煙を立てる/冒烟。
    •   砂ぼこりを立てる/扬起沙尘。
    •   やかんが湯気を立てる/水壶冒着热气。

    • (3)扎。(突き刺す。)
    •   のどに魚の骨を立てる/嗓子里扎上鱼刺。

    • (4)立;制定,起草。(作り上げる、決める。)
    •   志を立てる/立志。
    •   誓いを立てる/起誓。
    •   願を立てる/许愿。
    •   禁煙の誓いをたてたが2日でだめになった/起誓说要戒烟,可两天就不行了。
    •   計画を立てる/定计划。
    •   方針を立てる/制定方针.$騒ぎ立てる/大吵大嚷。
    •   飾り立てる/打扮得华丽。
    •   はやし立てる/打趣起哄。
  • 考えとく
  • 木曾路《きそじ》にあこがれている
    • 憧憬;向往。(物事に心が奪われる。)
    •   舞台生活にあこがれている。/向往舞台生活;一心想做戏剧演员。
    •   地方の人はみんな北京にあこがれている。/外地人都向往北京。
    •   都市にあこがれ,農村を軽視する古い考え方を捨てる。/丢掉留恋城市,轻视农村的旧想法。
  • 白髪《しらが》がまじった
  • 貫禄がついた
    • 身にそなわる威厳。おもみ。)
    •   貫禄がない。/没有威严。
    •   貫禄のある人。/有威望的人。
    •   貫禄がたりない。/威信不够。
    •   貫禄をそこなう。/损害尊严。
    •   貫禄がつく。/有了威信。
    •   貫禄を示す。/显示威严。
  • 頬《ほお》がたるんでいる
    • (張っていたものがゆるくなる。ゆるむ。)
    •   たるんだ綱。/松弛的粗绳子。
    •   たるんだ肌。/松弛的皮肤。
    •   たるんだ二重あご。/松弛的重下颏。
    •   目の皮が弛む。/眼皮松弛(发困)。
  • 厚い唇が窄《すぼ》んで見えた
    • (1)缩窄、变窄。尖端越来越细。(先細りになる。)
    •   先が窄んだズボン。/裤脚收紧的裤子。

    • (2)收缩、缩小。(小さく縮む。しぼむ。つぼむ。)
    •   花が窄む。/花蔫了。

    • (3)衰落、减弱。(おとろえる。よわくなる。)
    •   勢いが窄む。/势力衰弱。
  • 行きあたりばったりに宿をとる
    • 一貫した計画や予定もなく、その場その場のなりゆきにまかせること。
  • 行きずりの宿屋にはいってゆく
    • 迎面错过,偶然路,路过。
    • (出会ってすれちがうこと。)
    •   行きずりの人。/失之交臂的人。
  • 太い梁《はり》を這《は》わせた天井
    • 房梁,横梁,大梁。(屋根を支えるために横に渡した、太くて長い材木。)
    •   家が丈夫かどうかは梁が大事だ。/一个房子牢不牢固,横梁很重要。

    • 同:うつばり

    • 1)爬。〔両手両膝を地面などにつけて進む。〕
    •   赤ん坊が這うようになった。/婴儿会爬了。
    •   へびが這う。/蛇爬行。
    •   かたつむりが木を這う。/蜗牛爬树。
    •   急に腹痛がして這うようにして家へ帰った。/肚子突然疼了起来,象爬似的好容易到了家。

    • (2)攀援,爬。〔植物などが地面に沿って延びる。〕
    •   窓の上に朝顔をはわせる。/让牵牛花往窗上爬。
    •   つたが垣根を這う。/爬山虎爬在篱笆(墙)上。
    •   かぼちゃを畑一面にはわせる。/让南瓜蔓满地爬。

    • (3)趴(下)。〔腹ばいになる。〕
    •   投げられて土俵に這う。/被摔趴在角力场。
  • 天井は黒く煤《すす》けて
    • (1)烟熏,煤烟熏污。( すすがついて黒く汚れる。)
    •   鍋が煤ける。/锅被烟熏黑。

    • (2)变成黑褐色。(古くなって汚れた色になる。)
    •   壁が煤ける。/墙壁变成黑褐色。
  • 畳は赤茶けている
    • 发红;变成红褐色。(赤みがかった茶色になる。あかっちゃける。)
    •   赤茶けた洋服。/发红(掉色)的西装。
  • 炉端《ろばた》にすわって
    • 炉旁,炉边。(囲炉裏のそば。)
    • 同:炉ばた、炉辺
  • 輪香子を招じてくれ
    • 招待。请进,让进。(まねく。また、まねき入れる。)
    •   自宅に招じて酒肴を供する。/在自己家招待客人,提供美味佳肴。
  • 鉤《かぎ》から大きな鉄瓶をはずして
  • 渋い茶をついでくれる
  • そんな空想をこっそりしていた
    • 悄悄地。偷偷地。暗暗地。(他人に気づかれないように行動するさま。こそこそ。)
    •   こっそりと話をする。/悄悄地说话;小声说话。
    •   こっそりと見る。/偷偷地看。
    •   こっそり出て行く。/蹑手蹑脚地出去。
    •   こっそり持って逃げた。/偷偷地拿跑了。
    •   こっそり跡をつける。/悄悄跟踪。
    •   こっそりと庭をのぞく。/探头探脑地往院子里看。
  • 裏の戸を風が叩《たた》いて過ぎる
  • 勝手な宿に泊まって
  • 輪香子の不服を聞いて口を入れた
    • 他人の話に割り込む。
    • また、他人のことに干渉する。
    • 嘴 (くちばし) をいれる。
    • 「内輪の話に―・れてほしくない」
  • 東京から名古屋に直行して
  • 故障をはさまれなかった
    • (1)故障,事故(事故);障碍(さしさわり);毛病。(異常。)
    •   機械が故障した。/机器出了毛病。
    •   体には故障がない。/身体没毛病。
    •   故障なく進行する。/顺利进行。
    •   その列車はなにか故障があって延着した。/那次列车由于发生某种事故误点了。

    • (2)异议,反对意见。(異議。)
    •   故障を申し立てる。/提出异议。
    •   故障を唱える。/表示反对;唱反调。
  • 父の魂胆が分かった
    • 计谋,阴谋,企图。(心中ひそかに考える計画。)
    •   腹になにか魂胆があるにちがいない。/心里一定怀着什么阴谋诡计。
    •   なにをやらかす魂胆だろう。/到底在企图干什么?
  • 中年の二人づれの男が立っていて
  • 降りる客に目を配っていた
    • 周囲を注意して見回すこと、あるいは様々なところに気を配ることなどを意味する表現。
  • 口もとにやさしい微笑をたたえていた
  • 少々どぎまぎして答える
    • 慌张,慌神,惊慌,张皇失措。(平静さを失ってうろたえてあわてるさま。どまどま。)
    •   指名されてどぎまぎする。/突然被点名有点惊慌失措。
    •   突然のことでどぎまぎした。/因突发事件而慌神。
  • 彼女の提げている 
    • (1)提,挎。(手で持ったり、肩に掛けたり、腰につるしたりして物を持つ。)
    •   手拭いを腰に提げる。/把手巾别在腰间。

    • (2)携带,拿。(携帯する。)
    •   大きなかばんを提げていく。/手提大皮包前往。

    • 同:下げる
  • スーツケースを両手で抱えあげる
  • 長い駅の構内を 
  • 一人が先導するように 
  • まっすぐに通りぬけると、
  • 表には車が待っていて
  • 身ぎれいな運転手がドアをあけて
  • 彼女におじぎをした
  • 肩書を見て県庁の人だ
    • 头衔,官衔,称呼,地位。(その人の氏名も上に書く官職?学位など。)
    •   肩書が多い。/头衔(官衔)多。
    •   村田さんは文学博士の肩書をもっている。/村田先生有文学博士的头衔。
    •   ... という肩書で呼ぶ。/用......的头衔称呼。
    •   肩書を大事にする。/重视头衔(地位)。
  • 胸をはずませていた
    • 喜びや期待などで心が落ち着かなくなる。
    • わくわくする。
    • 「―・せて入学式を待つ」
  • 赤いリボンの垂れた
    • 丝带,缎带;飘带;发带;色带。(幅の狭い薄地の織物。洋服、帽子、頭髪の飾りや贈答品の包装に用いる。手芸の材料ともする。)
    •   リボンを結ぶ。/系丝带;打结。
    •   リボンの蝶むすび。/丝带的蝴蝶结。
    •   服にリボンをつける。/给衣服饰上飘带。
    •   髪をリボンでしばる。/用发带把头发扎上。
  • 大きな果物籠を抱えてきた。
    • 【かご】
    • 筐,篮,笼。用竹、藤、铁丝等细条状物编制的用来盛东西的器物。(竹・籐・針金など、細いものを編んだり組んだりして作った入れ物。)
    •   鳥籠。/鸟笼。
    •   くず籠。/垃圾筐。
    •   籠を編む。/编筐。
    •   おみやげにりんごをひと籠買った。/买了一筐苹果作为礼物。

    • 《相关惯用语》
    • 籠で水をくむ。/竹篮打水一场空;徒劳无功。
  • 輪香子を中央にゆっくりとすわらせて
    • (1)舒适,安静,安适。〔時間をかけて(時間にせかされないで)落ち着いて何かをすることを表す。〕
    •   ゆっくりとお休みください。/请您好好休息。
    •   ひと晩ゆっくり休む。/舒舒服服睡一夜。
    •   あしたは休みだからゆっくりしていらっしゃい。/明天休息请多坐会儿吧。

    • (2)充裕,充分,有余地。(時間・空間・気持ちなどに余裕があるさま。〕
    •   いまからでもゆっくり間に合う。/即使从现在起也还来得及。
    •   おふたりでもゆっくり座れます。/坐两个人也有富余。
  • 道をよけて顔を上げ、 車を見ていた
    • (1)避,躲避。(出会わないようにさける。ぶつからないようにみをかわす。)
    •   車を避ける/躲车。
    •   水たまりをよけて通る/躲开水坑走过去。
    •   議論のほこ先を巧みに避ける/巧妙地避开争论的矛头。

    • (2)防,防备,避,遮,挡。(前もって災害などを防ぐ。)
    •   霜を避ける/防霜。
    •   雷を避ける/避雷。
    •   ぼくらの家は植え込みで西日をよけている/我们家有树阴遮西晒。

    • (3)推开,消除。(脇に押しやる、除く。)
    •   不良品を避ける/消除劣质品。
  • 羽振りのいいほうの局長
    • 声望、名声、实力。在社会上的地位。(世間における地位・勢力・人望。主に金力や権力などいう。)
    •   羽振りを利かせる。/巧用名望。
  • 娘の旅の宿を気づかって
  • 娘の旅の宿を気づかっての愛情
    • あれこれと気にかけて心配する。案じる。「安否を―・う」
  • 要所要所の自由
    • それぞれの要所に対して、それぞれの重要な箇所に対して、重要な場所一つ一つ一つに、などという意味の表現。
  • 要所要所の自由を父の手に押えられている
  • 古びたタクシー
  • さすがに父の手から洩れていた
    • 的确(形容程度较甚)。(予想通りに。やはり。)
    •   おとなしい彼も、そこまで言われてさすがに怒った。/就连一贯温顺的他听到后也发火了。

    • 语法:さすがに~だけあって:不愧是……。
    •   さすがにホテルで仕事をしているだけあって、始終笑顔が絶えなかった。/不愧是从事酒店工作的,一直保持者笑容。
  • 杉の峠道
  • 根に石をならべた馬籠の宿場
  • 飯田《いいだ》に抜ける
  • 大平峠《おおたいらとうげ》の途中の茶屋での展望
  • ともかく
    • (1)回头再说,姑且不论,暂且不谈〔同とにかく)。
    •   じょうだんはともかく/玩笑姑且抛开。
    •   素行はともかく彼が名画家であることはまちがいない/人品如何姑且不谈,他确不失为一个名画家。
    •   費用の点はともかく、第一、時間がない/费用多少姑且不谈,首先没有时间。
    •   10代の子どもならともかくあの年で分別のない話だ/若是十几岁的孩子还有情可言,那么大岁数也太不懂事了。
    •   よしあしはともかくとして、それが事実だ/是好是坏且不说,反正那是事实。
    •   ほかの人にはともかくわたしには何もかも打ち明けたまえ/对别人是另一回事,对我可一点也不要隐瞒。

    • (2)无论如何,不管怎样〔どうあろうとも〕;总之;好歹(よかれあしかれ)。
    •   ともかく行ってみよう/不管怎样,去看一看吧。
    •   ともかく値段が高すぎる/总之,价钱太贵。
    •   ともかく、やってみることだ/好歹还是试一试。
  • 岨《そば》づたいに行く崖《がけ》であり
    • 山の切り立ったけわしい所。がけ、絶壁など。
    • 顺着……、沿着……(名詞の下に付いて複合語をつくり、それを伝わって行くことを表す。)
    •   海岸伝い。/沿着海岸。
    •   川伝いの道を行くと駅前に出る。/顺着河往前走就走到车站前。
  • 数十間の深さに臨《のぞ》む木曾川の岸
  • 山の尾をめぐる谷の入口
  • 一筋の街道
  • この深い森林地帯を貫いていた
  • 冴《さ》えた新緑
    • (1)寒冷,寒凉,冷峭,清寒料峭。〔冷えびえする。〕
    •   冬の夜はしんしんと冴える。/冬天的夜晚冷峭逼人。

    • (2)清澈,鲜明。〔澄みきる。〕
    •   さえた月。/清澈的月光,月光如水。
    •   さえた星空。/清澈的布满星星的天空; 星光灿烂的天空。
    •   さえた色。/鲜明的颜色。
    •   さえない色。/暗淡〔灰暗〕的颜色。
    •   さえた音色。/清脆〔清亮〕的声音。
    •   雨で紅葉がいちだんと冴える。/雨后红叶更加鲜艳。

    • (3)清爽;清醒。〔頭がはっきりする。〕
    •   目がさえてなかなか眠れない。/精神兴奋根本睡不着。
    •   よく寝たので頭がさえている。/因为睡得好,头脑清醒。
    •   気分がさえない。/心情不清爽。
    •   顔色がさえない。/没有生气的脸色。

    • (4)清晰,灵敏,精巧,纯熟。〔あざやかな。〕
    •   さえた腕。/熟练的本领;高超的技术。
    •   頭のさえた人。/头脑敏锐〔清晰〕的人。

    • (5)挺棒挺棒。〔すばらしい。〕
  • 黒っぽい杉の森林の間からもえていた
    • (1)燃烧,着火。(火がついて炎が出る)
    •   燃えている石炭/燃烧着的煤。
    •   燃える火に油を注ぐ/火上浇油。
    •   ストーブに火が盛んに燃えている/炉中火着得很旺。
    •   この石炭は湿っていてよく燃えない/这煤湿,不好烧。

    • (2)热情洋溢。(感情・情熱が高まる)
    •   青春の意気に燃える/洋溢青春的热情。
    •   愛国の情に燃えている/燃烧着爱国的热忱。
    •   希望に燃えて大学に進学した/满怀希望地进了大学。

    • (3)火红。(炎のように光る。炎のようにゆらめく)
    •   燃えるような太陽/火红的太阳。
    •   山が燃えるような紅葉に包まれる/满山都是火红的枫叶。

  • 初夏の陽をうけて 光ってうねっている木曾川を望んだ。
    • (1)弯曲,蜿蜒。〔曲がりくねる。〕
    •   道がうねる。/道路蜿蜒。
    •   小川がうねって流れる。/小河蜿蜒曲折地流。

    • (2)起伏,滚动,翻腾。〔起伏する。〕
    •   波がうねる。/波涛起伏〔翻腾〕。
    •   遠くにうねる山なみ。/远山起伏。
    •   無数のたいまつの火が竜のようにうねって動いていた。/无数的火把宛如千万条火龙在滚动。
  • 光線を眩《まぶ》しくふくんだ白い雲の下に
    • (1)含。(口の中に物を入れ飲みこんだりかんだりしないままでおく。)
    •   口いっぱいに水を含む。/嘴里含满着水。
    •   目に涙を含む。/眼里含泪。

    • (2)带有,含有,包括。(中にこめている。成分・要素・性質としてもつ。内に物を包み持つ。)
    •   彼の言葉は深い意味を含んでいる。/他的话包含着很深的意思。
    •   鉄分を含んだ水。/含有铁分的水。
    •   報酬は1日5千円、ただし交通費を含む。/报酬每天五千日元,但包括交通费在内。

    • (3)了解,考虑,知道,记住。(事情を理解して考慮に入れる。心中に持つ。心に留めおく。)
    •   この点を含んでいてほしい。/这点希望您理解。
    •   そこの所をどうかよく含んでおいてください。/那个地方希望您记在心里。

    • (4)含,怀(恨)。(その様子を表にあらわす。ようすを帯びる。きざしを示す。)
    •   恨みを含む。/怀恨。
    •   彼に含むところがある。/对他有些怨恨(有点不满)。
    •   怒りを含んだ顔つき。/含怒的脸色。
    •   媚びを含んだ目。/含有媚气的眼神。

    • (5)鼓起;膨胀;(花)含苞。(ふくらむ。つぼみがつく。)
    •    指貫の裾つかたすこしふくみて。《源氏物語若菜上》/把指贯(中古时期男子和服裤裙)的地方弄蓬松些。
  • 淡いコバルト色
    • (1)钴。(鉄族に属する遷移元素の一。)
    •   コバルト爆弾。/钴弹。

    • (2)蔚蓝色。(コバルトブルー。)
    •   コバルト・ブルーの空。/蔚蓝色的天空。
  • 淡いコバルト色にかすんだ御岳《おんたけ》の稜線《りようせん》
    • (1)云雾朦胧。雾霭笼罩,亦指物体变得模糊不清。(霞がかかる。また、ものがぼやけて見えなくなる。)
    •   月が霞む。/月色朦胧。

    • (2)朦胧,暗淡。眼睛模糊看不清。(目がぼやけて見えなくなる。「翳む」をも書く。)
    •   涙で目がかすむ。/泪眼朦胧。

    • (3)暗淡,不醒目,看不清。因其他事物的存在而变得不再醒目。(ほかのもののために、存在が目立たなくなる。)
    •   豪華な顔ぶれに主賓がかすむ。/来宾阵容豪华,主宾相形见绌。
  • 真向かいに膝《ひざ》を折ってすわっていた。
    • 正对面。(正しく相対していること。正面。まんまえ。)
    •   私の真向かいに座っている人。/坐在我正对面的人。
  • 何かの不都合がかかりましたら
    • 1 都合の悪いこと。また、そのさま。「客を通すには不都合な部屋」⇔好都合。
    • 2 けしからぬこと。また、そのさま。ふとどき。「不都合な行い」
    • 3 貧しいこと。生活が苦しいこと。また、そのさま。
  • いくら頼んでも頑固に諾《き》かない
  • 気味が悪くて眠れなかった。
  • 穏やかな微笑を口辺に浮かべた出迎え人
    • 【こうへん】 【kouhen】 ◎
    • 【名】

    • 口边,嘴边,嘴角。(口のまわり。口のあたり。)
  • すこしばかり古めかしいのを除く
  • すこしばかり古めかしいのを除くと、 高雅な建築様式であった。
    • 古老的,陈旧的,古色古香的。(いかにも古いという感じがするようだ。)
    •   古めかしい建物。/古老的建筑物。
  • 光を中央にためていた。
  • 対岸に屋根がこまやかな点描《てんびよう》で集まって見え
  • ゆるやかな山が横に流れていた
    • (1)缓慢,缓和。(傾斜が急でないさま。なだらか。)
    •   緩やかな流れ。/缓慢的河流。
    •   緩やかにカーブする道。/慢弯的道路。
    •   傾斜の緩やかな坂。/慢坡;陡度小的坡。

    • (2)宽松,宽大。(きびしくないさま。寛大なさま。)
    •   審査基準を緩やかにする。/放宽审查标准。

    • (3)舒畅。(のびやか。)
    •   緩やかな気分。/舒畅的心情。
  • 真向かい
  • 天龍川《てんりゆうがわ》の取入れ口
  • 有名な御神渡《おみわた》りの現象が起こります
  • その微笑にくるんだ親切な申しいでを断わった
  • こっそりホテルの女中にきく
  • 通りいっぺんの名所
    • 了解,理解,领会;[評判になる]
    • 人缘,声誉;[よく知られている]
    • 众所周知,通用。(世間に行われること。通用、流通のこと。受け入れられること。了解されること。)
    •   近所では通りのよい医者。/在附近声誉很好的医生。
    •   世間の通りが大事だ。/社会上的人缘很要紧。
    •   通り名。/通称,习惯称呼。
    • 一变,完全改变。突然改变。(すっかり変わること。また、変えること。)
    •   形勢が一変する。/形势一变。
    •   彼の病情が一変した。/他的病情突然转变。
    •   テレビは民衆の娯楽を一変させた。/电视使群众的娱乐为之一变。
  • 何か変わったところ
  • 女中は小首をかしげていた
    • 小首を傾げる。/歪头(思考)
    • 倾斜。(斜めにする。かたむける。)
    •    首を傾げる。/歪头。
    •    耳をかしげて聞く。/侧耳听。

    • 【ななめ】 【naname】 ② 
    • 【名・形動】

    • (1)倾斜。(基準方向に対し垂直でも平行でもないこと。)
    •   斜めになる。/倾斜。
    •   斜めに切る。/斜切。
    •   斜めにする。/使倾斜,放斜。
    •   斜めに線を引く。/画斜线。
    •   オールを斜めに立ててこぐ。/斜着桨而划。
    •   道を斜めに横切らないように。/不要斜穿马路。
    •   帽子を斜めにかぶる。/歪戴帽子。
    •   彼の家はわたしの家の斜め向かいです。/他家在我家的斜对过。
    •   斜め歯車。/歪伞齿轮。
    •   斜め継ぎ。/斜削接头。

    • (2)日过正午。(日が中天を過ぎて西に近づく。)
    •   日が斜めにさす。/日光斜照。
    •   日が斜めになる。/太阳西斜。

    • (3)不平常。(普通ではない。)
    •   ご機嫌斜め。/心情不佳。

    • 【相关惯用语】

    • 斜めならず。/非常,十分。
  • 乞食《こじき》の掘立小屋みたいなもの
  • それを見にゆく気になった
  • 届けものの果物籠がのっていた
  • レース手袋をはめ
  • ハンドバッグを抱えながら
  • 車は往還を北にすすんだ。
    • 往還(おうかん)とは。意味や解説、類語。[名](スル)1 道を行き来すること。往復。往来。「東京と大阪とを往還する」
    • 2 人などが行き来するための道。主要な道路。街道。「丘の下の―に出ると」
  • 白い埃《ほこり》が立っていた。
  • 運転手が背中できいた。
  • 牛のひいている荷車を苦心して追いぬいた
  • 右にカーブを切る
    • カーブ/カーヴ. 曲線を意味する英語。en:Curve · 曲線。曲がったもの。日本語では、湾曲(弓形に曲がる)部という。 道路や鉄道路線に見られるカーブ(曲線)については線形 (路線)を参照。 野球の変化球の一つ。カーブ 
  • 小さな道を急勾配《こうばい》で登った
    • 陡坡。(道や屋根などの傾きが急なこと。)
    •   急勾配の階段。/陡的楼梯。
  • その畔道《あぜみち》を上がります
    • 田と田の間の細い道。
  • 帽子をつきだして方向を教えた
    • (1)推出去。〔押し出す。〕
    •   彼女を部屋の外に突き出す。/把她推出屋外。

    • (2)〈相扑〉撞出,猛力推出(界外)。
    •   土俵の外に突き出す。/猛力推出场外。

    • (3)突出;伸出;探出;挺起。〔前へ勢いよく。〕
    •   茶わんを突き出す。/把碗伸出去;伸出碗去。
    •   こぶしを突き出す。/伸出拳头。
    •   窓から首を突き出す。/从窗户探出头去。
    •   窓が突き出している部屋。/窗户突出的房间。

    • (4)扭送。〔むりに連れて行く。〕
    •   すりを警察へ突き出す。/把扒手扭送给警察。
  • 白い小さな花がついていた
    • 花がつく ・ 花がある ・ 花が来る
  • 花弁は薄赤色をおびていた
    • 【はなびら】
    • 花瓣。(花冠を組み立てている一枚一枚の薄片。かべん。)
    •   さくらは5枚の花弁をもつ。/樱花有五个花瓣。
  • 新緑の滴《したた》る
    • (1)滴,滴落。(水などが、しずくになって垂れ落ちる。)
    •   木の葉からしずくが滴る。/从树叶上滴下水珠。

    • (2)表示非常鲜艳,非常美丽。(美しさや鮮やかさがあふれるばかりに満ちている。)
    •   新緑滴るばかり。/青翠欲滴。
    •   水の滴るよう。/娇滴滴。
    • 滴(しずく)とは、したたり落ちる、液体の粒のこと。
  • エメラルド色の茂り
    • (緑柱石の一種。濃緑色で透明なもの。宝石にする。緑玉。翠玉。)
    • (2)〔色〕艳绿色。(エメラルドの色。)
    •   エメラルド・グリーン。/翡翠绿;巴黎绿B。
  • 見紛《みまご》う小さな白い花の満開は美しかった
  • 新緑の滴《したた》るようなエメラルド色の茂りに
    • 《「あざ」は新鮮の意》1 ものの色彩・形などがはっきりしていて、目立つさま。
    • 「鮮やかな若葉の緑」「印象鮮やかな短編小説」
  • 梅か白桃かとも見紛《みまご》う小さな白い花の満開は美しかった。
    • (見まちがえる。見あやまる。)
    •   海かと見紛う大湖。/把湖错看成了大海。
    •   雪と見紛う花吹雪。/如雪花般的飞花。
    •   写真と見紛う精巧さ。/(画作)宛如照片一般的精细。
  • 麦畑の中にぽつんと建っていた
    • 孤立。(孤立しているようす。)
    •   田の中にぽつんと家が建っている。/
  • 萱《かや》で葺《ふ》いてある
  • 畔道を伝って近づいた
  • 一つの展望の中にはいっていた
  • 陽が少し傾きかけて
  • 湖面は目が痛いくらいに強く光っていた
  • 案内のアナウンスと音楽が聞こえた。
    • [名](スル)1 放送によってニュースや案内などを告げること。また、その放送。「到着時刻をアナウンスする」「場内アナウンス」2 公表すること。正式に発表すること。
  • 合掌造りの掘立小屋を眺め
    • 合掌造り(がっしょうづくり)は、日本の住宅建築様式の一つである。急勾配の屋根を持つことがしばしばであるが、現存する合掌造りの屋根は45度から60度まで、傾きにかなりの幅がある[1]。
    • 掘っ建て小屋(ほったてごや)とは、礎石などを用いず、柱を直接土中に埋め込んで建てる小屋である。転じて、粗末な家に対して使われる表現となった[1]。
  • 説明の立札を読んだ
    • たてふだ
    • (法度?禁制など、人々に知らせたいことを書いて立てた木の札。)
    •   立て札を立てる。/立告示牌。
  • 農夫が腰をかがめて麦畑にいる
    • 弯腰,屈身。(からだを前に折り曲げてやや低い姿勢をとる。かがむようにする。)
    •   腰を屈めてあいさつする。/弯腰打招呼。
  • 白い花をこぼれる
    • 谢,凋。(花・実・葉などが散り落ちる。)
    •   エゴノキの花は零れるように散る。/野茉莉花凋零散落。
  • 内部を覗《のぞ》きたくなった
  • 思いきって内部に足を入れた
    • 决心,下定决心。(心を決める。覚悟する。)
    •   思い切ってやりましょう。/下定决心干吧。
  • 何か掲げてある
  • 目の慣れるのを待っている
  • 暗い隅から何かが動いた
  • 肝《きも》を消した
    • 胆子,胆量。〔度胸。気力。胆力。〕
    •   肝が太い。/胆子大。
    •   肝の小さな人間。/胆小鬼。

    • 《常用惯用句》
    • 肝が据わっている。/胆子壮;稳如泰山。
    • 肝にこたえる。/深受感动。
    • 肝に銘じる。/铭记在心;铭诸肺腑。
    •   このことを肝に銘じて忘れてはならない。/你要把这事牢牢记在心里。

    • 肝をいる。/焦虑,焦躁;操心,担心。
    • 肝を奪われる。/吓倒。
    • 肝を落とす。/大失所望;灰心丧气。
    • 肝をつぶす。/吓破胆;丧胆;吓得魂不附体。
  • 先方が声をかけてくれた
    • 相手。せんぽう。相手。さきかた。
  • とっさに
    • [副]その瞬間に。たちどころに。马上、立即
    • 例:とっさにプレーキを踏む
  • やっと
    • (長い時間を要したが、ようやく。)
    •   やっと彼女をくどいた/好不容易把她说服了。
  • やっと慣れた目には
  • ふくれたズックの鞄《かばん》を枕にしていた
  • 青年の黒い輪郭がうつった


@@@@


  • 安堵《あんど》
  • 気の毒になった
  • 打ち消した
  • 動作を急にゆるめた
  • 片頬をほのかに浮かばせた
  • 竪穴の内にもぐりこんで寝てた
  • ジャンパーと、 裾《すそ》をくくったズボンをはいている。
  • 手にぶらさげていた。
  • ここで火を燃しましてね
  • 弓で仕止めた獣
  • 呆《あき》れた口吻《くちぶり》
  • かならずしも寝るとはかぎりませんが
  • 体にぬくみを感じた
  • 半裸体の毛むくじゃらな原始人
  • せいぜいの彼女の挨拶
  • 受けとるとも受けとらぬともつかない返事をした。
  • 気軽に言葉を返してくる
  • 不機嫌そうなかげり
  • 気障《きざ》になります
  • 不機嫌そうなかげりがさしたようにみえた
  • 気軽に言葉を返してくる
  • 気障《きざ》になります
  • 気の利いた質問のつもり
  • 気の利いた質問のつもりだった
  • 軽薄で生硬な言葉を口に出したもの
  • 漫然とその頭文字《イニシヤル》の当て字を考えている。
  • 径は下り坂だ
  • もしかすると
  • 不躾《ぶしつけ》
  • 不躾《ぶしつけ》だし、
  • ほしくないでもなかった。
  • 彼の職業もその程度の暗示がほしくないでもなかった。
  • ふらふらと
  • 富山《とやま》県をうろついています
  • てれたように苦笑した
  • 持主は気づかなかった
  • 跨線橋《こせんきよう》
  • 昨日のとおりの服装
  • ちょっと人違いではないか
  • しかめられていた
  • 沈んだような表情

@@@@@


  • 頬をふくらませた
  • 差し入れしたり、 お節介していただく約束はしませんでしたわ
  • きたない言葉はよしてちょうだい
  • 白い細面《ほそおもて》のひ
  • 鼻皺が寄る
  • 顔をしかめた
  • 機嫌のいい顔でなだめた
  • 剣幕に困った
  • 四角い包み
  • きゃしゃな椅子
  • 肥えた父
  • 肥えた父は窮屈げに腰をおろし
  • 私に気をつかって
  • 旅館の手配を頼んでおいた
  • 行くさきざきで束縛されたみたい
  • ありあわせの紙
  • お父さまへの心づかいです
  • まだまし
  • そこだけを念入りに言った
  • 母が覗きにきて、 父を車にせきたてた。
  • 電話口で渋ると
  • 声は弾《はず》んでいた
  • 入母屋《いりもや》造りの本堂
  • こけがとりついたようにくろずんでいる。
  • 山門までの道は杉木立(すぎこだち)があり、
  • 葉が緻密《ちみつ》に重なっている
  • ひなびた食べもの店
  • 腹ごしらえをして
  • すらりと着つけのきれいな和服の女性
  • もとより不躾《ぶしつけ》なのである
  • にこにこしながら
  • 小さなせせらぎが流れていた
  • おじさんはかがんで腕を箱の中に入れた
  • 指に跳ねている魚
  • 俎《まないた》
  • 魚は諦《あきら》めたように動かないでいた
  • 講釈しながら、 包丁を入れていた。
  • こいつは俎の上に乗せたら立派なもんです」
  • 潅木《かんぼく》の枝
  • その方を何気なく見た。
  • 洋服と白っぽい着物
  • 木の茂みから出た男の顔を見て
  • もう少しで声をあげるところだった。
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