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01風立ちぬ

風立ちぬ
起風了/不會停歇的風

(日漢雙語對照)

堀辰雄/著
  孟瑾/譯



Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
PAUL VALLEY


縱有疾風起,人生不言棄。
                    ——保羅·瓦勒裡


それで和訳すると、「風が起きた、生きることを試みねばならない」の意味となる。要するに、吹いた風を契機に、著者の「生きるぞ!」との決意を現わしているのである。

 ところで、堀辰雄はここの部分を、「いざ、生きめやも」と訳している。「生きめやも」は「生き+む(推量の助動詞)+やも(助詞『や』と詠嘆の『も』で反語を表す)であり、現代語になおすと「生きるのかなあ。いや、生きないよなあ」となる。ダイレクトに訳してしまえば、「死んでもいいよなあ」であり、つまりは生きることへの諦めの表現である。
 「生きめやも」を逆にフランス語に訳せば、Vous ne devez pas tenter de vivre.…ではあんまりだから、やんわりとVous n'avez pas à tenter de vivre.くらいになるだろうけど、いずれにせよ、己の生への強い意志を詠じた原詩とはまったく反対の意味になってしまう。

 それゆえ、堀辰雄の「いざ生きめやも」は誤訳の典型として知られてきており、例えば大野晋、丸谷才一の両碩学による対談で「風立ちぬ」が取りあげられたとき、両者により、堀辰雄は東大国文科卒のわりには古文の教養がないと、けちょんけちょんにけなされている。

 ただ、誤訳といえば、誤訳ではあろうけど、私は小説「風立ちぬ」では、「生きめやも」でもいいと思う。

http://promontory.cocolog-nifty.com/promontory/2013/08/post-12cd.html



序曲

それらの夏の日々、一面に薄の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木蔭に身を横たえていたものだった。そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、それからしばらく私達は肩に手をかけ合ったまま、遥か彼方の、縁だけ茜色を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線の方を眺めやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平線から、反対に何物かが生れて来つつあるかのように……
 
  在那些夏日裡,在彌望著茂密芒草的草原中,當你站在那裡專心致志地作畫的時候,我總是躺在旁邊一株白樺的樹蔭下。而到了傍晚,你結束了工作,來到我身邊。然後,我們就互相摟著肩膀,一動不動地眺望著遠方那被密密匝匝、只有邊緣帶著暗紅色的積雨雲團覆蓋著的地平線。似乎從那終於走向黃昏的地平線上,反而有什麼正悄然誕生......

そんな日の或る午後、(それはもう秋近い日だった)私達はお前の描きかけの絵を画架に立てかけたまま、その白樺の木蔭に寝そべって果物を齧じっていた。砂のような雲が空をさらさらと流れていた。そのとき不意に、何処からともなく風が立った。私達の頭の上では、木の葉の間からちらっと覗いている藍色が伸びたり縮んだりした。それと殆んど同時に、草むらの中に何かがばったりと倒れる物音を私達は耳にした。それは私達がそこに置きっぱなしにしてあった絵が、画架と共に、倒れた音らしかった。すぐ立ち上って行こうとするお前を、私は、いまの一瞬の何物をも失うまいとするかのように無理に引き留めて、私のそばから離さないでいた。お前は私のするがままにさせていた。

   就在那些日子裡的一個下午(那時已經接近秋天),我們把你尚未畫完的畫立在畫架上,側臥在那株白樺的樹蔭下吃著水果。如沙的碎雲從天空輕輕飄過,這時,起風了,出人意料,不知所從。在我們頭上,樹葉間偶爾可見的藍色時展時縮。幾乎與之同時,我們聽到了草叢中有什麼東西“啪”地倒下的聲音。那聲音,像極了我們放在那裡的畫隨著畫架一起倒下的聲音。你想馬上轉身過去,但我硬是拉住你,就像不想失去眼前轉瞬即逝的什麼東西似的,不讓你從我身邊離開,你順從了我。

風立ちぬ、いざ生きめやも。
   “縱有疾風起,人生不言棄。”

 ふと口を衝いて出て来たそんな詩句を、私は私に靠れているお前の肩に手をかけながら、口の裡で繰り返していた。それからやっとお前は私を振りほどいて立ち上って行った。まだよく乾いてはいなかったカンバスは、その間に、一めんに草の葉をこびつかせてしまっていた。それを再び画架に立て直し、パレット・ナイフでそんな草の葉を除りにくそうにしながら、「まあ! こんなところを、もしお父様にでも見つかったら……」お前は私の方をふり向いて、なんだか曖昧な微笑をした。

   我把手搭在你緊靠我的肩上,嘴裡重複著這脫口而出的詩句。而後,你終於掙開我,站起來,走了。還沒有完全凝固的油彩,在這會兒已經沾滿了草葉。你把它重新立在畫架上,一邊用版刀費力地除去草葉,一邊驀然回頭對我莫名其妙地微微笑著,說道:“啊!要是讓你父親看到咱倆在一起,他會怎樣呢?”
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