角が大きくなってきた小さな子ヤギは、 (もう僕は 大人の雄ヤギだぞ、 自分のことは 自分でやれるよ) と 思いました。 そこである夕方、 群れが牧草地から帰りだして お母さんヤギが呼んでも、 子ヤギは 耳を傾けないで 柔らかい草をかじり続けました。 ((硬いものの一部を少しずつ歯でかんで削りとる。) ねずみが柱を齧る。) 少し経って 頭をあげてみると、 群れはいなくなっていました。 子ヤギは全くひとりでした。 太陽がもうすぐ沈むところで、 長い影が 地面の上を忍び寄ってきました。 影と一緒に 冷たい風が 草にぞっとする音を立てながら (「ぞっと」は副詞で、 悪寒や恐怖の念などが身体を抜けていくように感じるさま。 「ぞっとしない」という用法もあり、 こちらは「感心しない」というほどの意味で用いられる。) 吹いてきました。 子ヤギは 恐ろしい狼のことを考えて震えました。 そうして お母さんを探して メエメエ鳴きながら、 野原をやみくもに走りました。 (闇雲. 読み方:やみくも. 前後の思慮もなく、無闇と云ふこと。) しかし、 半分もいかないうちに 木の茂み近くに狼がいました! 子ヤギは 助かる望みがほとんどないとわかりました。 「お願いです、狼さん」 子ヤギは 震えながら言いました。 「あなたは僕を食べようとしているんですよね。 だけど、 先に一曲吹いてくれませんか。 だって 僕は踊ってできるだけ 長く楽しくしていたいから。」 狼は 食べる前に 少し音楽があったほうがいいな と 思いました。 それで、 明るい曲を吹き始め、 子ヤギは 陽気に とんだり跳ねたりしました。 その間に 群れは ゆっくりと 家へ向かっていました。 静かな夕方の空気中に、 狼の笛の音が 遠くまでひびきました。 羊飼いの犬たちが 耳をそばだてました。 そして、 狼が ご馳走を食べる前に その歌を歌っているのだとわかり、 すぐに 牧草地へ走り戻っていきました。 狼の歌が ふいにとだえました。 (続いていたものが、途中で切れてなくなる。) 狼は、 犬たちに追いかけられて逃げながら、 (おれはなんて馬鹿だ、 肉屋の仕事だけしていればいいものを、 子ヤギを喜ばすために (〔うれしがらせる〕;〔満足させる〕 息子の言葉は父親を喜ばせた. 彼はいつも人を喜ばせるようなことを言う.) 笛吹きに変わるなんて) と 思いました。 Do not let anything turn you from your purpose 他のことに気をとられて 本来の目的を忘れては いけません |